孤独と不安のおそろしさ?〚夢十夜 (夏目漱石)〛【ほーほー本#2】

夏目漱石といえば、「吾輩は猫である」や「坊ちゃん」など、
国民的作家として 有名な存在だ。

そんな人が、明治末期10日間ほどにわたって 朝日新聞に連載した
現代ホラー先駆けのテイストを秘めた 作品を世に出している。

夢十夜」だ。


あらすじ

夢十夜 世界観
よくわからない世界・・・

こんな夢を見た」という書き出しのもと、奇妙な夢の記述が続く。
あるときは 神代(神話の時代)、鎌倉時代、明治期だったり、百年間のときを越えもする。
一夜ごとに独立して計十夜、幻想的で不気味な世界観を語る。


読んでみて

・ノイズがかかった自分の人生?

人生に整理がつかなくなる
人生に整理がつかなくなる

ひとつの夢が短い(3~5ページ)こともあって、
1時間~2時間でさくっと読めてしまった。

全体として、「消化できなかったマイナスな記憶」を書き残した、という印象だ。

延々と 悶々と 悩み、苦しみ続けた人たち。
ある不条理・・・身内の不幸、犯してしまった罪、逃げ続ける不安、などに出くわし
自分の「人生の物語」に 整合性がとれなくなる。

自分自身、すごく分かる気がした。
あのとき、ああさえなっていれば」「この出来事さえなければ」という思いに
なることも多かったからだ。

ある日突然
自分の人生の意味がまったく分からなくなり、不安になる。

 

・不安と近代

わたしとは何者なのか
わたしとは何者なのか

なぜ不安になるか。それは近代の悩みそのものだと思う。

テンニースのいう ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへの移行でもあり
オルテガがいうトポス(居場所)なき大衆の出現であり
バウマンのいう 固定化の社会から液状化する社会への変動でもあると思う。

つながりから解き放たれ、わたしたちは 一切、何者でもなくなる という恐怖。

みんな平等」という名のもと、
自由にあたらしい地位を目指せる!」という喜ばれた点もありながら、
もしそれに失敗すれば 「自分のアイデンティティがぐちゃぐちゃに」なりかねない。

赤と黒」でジュリアンが目指したものや、
罪と罰」のラスコーリニコフが体現したようにも思う。

ふたりとも「英雄になりたい」と思った。
でも、その思いが誇大化していく中で 夢想した大きな野心と 今の自分との矛盾に気が付く。
満たされない思い。落ち着かない日々。あくせくと焦りにさらされる。

明治末に連載された小編だが、
日本における漱石は 同国でも同じように 進行しつつあった近代の病を描きだしたようにも 見える。

 

・第七夜 – 現代病の象徴?

第七夜の船
第七夜の船

とくに第七夜は その近代由来の、現代病をすごく象徴的に描いてるようだった。

何でも大きな船に乗っている。だが、乗っている理由がわからない。

水夫に 「どこへ行くのか」を聞いても、ただ笑われて どこか行ってしまう。
夜。甲板にて ひとりの異人から 「天文学を知っているか」「神を信仰するか」と尋ねられるが、
つまらないから死にたくなっていて 黙る。
サロンにて ひとりの女性がピアノを弾いており、立派な男性が唱歌しているも
その二人は二人以外のことにまるで無頓着だった。

とうとう死ぬことを決心し、海に飛び込んだが
その瞬間 無限の後悔と恐怖にさらされたが もう遅かった。

コミュニティも宗教も失ってきた 現代人そのものな気がする。
大きな船には いろいろと人がいる。でも、別に連帯感があるわけでもない。
たまたまみんな居合わせただけの存在で お互いに別に興味はない。
この場合の「船」は、「都市」の表象?

悩みが深いから 誰かと 真剣に将来の話をしたく思う。
自分たちがどこに行っているのか どこに行きたいと思っているのか 話したいと思う。
だけど、周りは別にそんなことに興味がない。
そんな真面目になんなくていいじゃん」とただ揶揄される。(水夫)

ある人は宗教にのめりこみ、勧誘してくる。
でも、別に神を信じているわけでもないから うっとうしく思うだけ。(甲板の異人)
(どこか、カミュの異邦人をそのまま想起させる。
終盤で 死刑を迎えるとき。懺悔をしつこく促し続ける神父に対して激怒し、
何も信じないし頼ろうとしない自分に 一種の誇りを感じ出した ムルソーのような)

その中で、どこか楽しんでいそうな二人はいるけれど
別に彼らとの接点は何もない。彼ら自身も周りに興味を抱いていないし。
だから、その人らが奏でる音楽も 何も心に響かない。(ホールの男女)

残ったのは孤独どこにも居場所がない
ただなんとなくでも そうしたひとりの状態が怖くて その恐怖から逃れるために
学校に行き 就活をし 企業に入って 「みんなが行くコースを」歩き続けた。
けど、もう突然 何もかも退屈になる。
だから身を投げようと思う。けど、それすらも その瞬間に大きな後悔をする・・・。

今、どこかで自殺しようとしている人
そのものの心境
にも感じる。


総じて

この夢十夜。「ちゃんとした物語」ではないです。
読んだあとになっても 全くすっきりしないし、何がなんだが 正直まったく分からない。

けど、そういう経験を どこかでしたこともある。
「目を向けたくない、人生で無かったことにしよう」としたこと。
「マンガや小説のフィクションや、テレビのドキュメンタリーみたいに
そのときは苦難があっても
最後にはきれいに解決するだろうと信じてたけど、そんなこと一切なかった
」ということ。

そんな「ものがたり化できない」個人の不条理を、
あえて文体に落とし込めたのが 漱石の見どころなんじゃないかな、と思います。

読む人によって、とてもいろんな解釈ができると思います。
こんな夏目漱石もあったのか」という、驚き。

全体の文章も短くて時間も全然かからないので、
ぜひ一読しては いかがでしょうか!

 

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